私のハラスメント防止対策
こんにちは。購読、閲覧ありがとうございます。今回は、演劇でのハラスメント防止策について。
の前に、前回の「暗転」の補足。袖で手を光らせる誘導方法、写真を添付すればよかったんだ。
こんなふうにします。暗闇の中でライトをつけて下に向け、指で握っておきます。(この写真はフラッシュを使っています)

舞台上が暗くなったときに、光の先が舞台上にもれていかないように気をつけながら手を開くと、手のひらが光るわけです。「ここに向かって歩いてくれば鳥目のあなたでも袖にたどりつけるよ!」というわけです。

このテク、学生時代に知りたかったなー。ご活用ください。
さて。もともとこのレター、演劇活動再開のときはこんなふうにしたい、という絵に描いた餅をたくさん語っていこうというのが動機の一つでした。そうなると、ハラスメント対策をどのように考えているか、という話題が避けて通れない。
今、ツイッター界隈では、相次ぐ告発を受けて色々な意見が飛び交っています。 #演劇におけるハラスメント撲滅宣言 を発表する個人、団体も増えました。日本劇作家協会も有志名義で「演劇の創造現場からあらゆるハラスメントや性加害をなくしていくために私たちは発言し行動します」という声明を発出しました。私は「有志」に加わっていない協会員ですが一会員として賛同し、まずは協会内でこのようなルール、制度を運用してはどうかという提案書を提出しています。協会委員にこういう人いるじゃん、という悪評を聞こえないことにしていては団体の信用は落ちるばっかりだし、「みんなで気をつけましょう」でどうにかなることでもないので。「発言し行動します」の一歩目を個人的には実践したつもり。
さて、それで私の話をします。実は、ハラスメント防止対策ポリシーを発表する、という行動に少し違和感を感じていました。それは、人を殴らないとか灰皿を投げないとか同意なく性的な接触をしないとか性交を強要しないとか出演をほのめかしてホテルに連れ込まないとか、そういったことって社会を生きる成人として当たり前のことだから、わざわざ当たり前のことを守りますといわなくてもいいじゃないか、と考えていたからです。会社や学校でダメなことは稽古場でも劇場でもダメ、それだけのことだろうと。もう一つは、「具体的に何をどうするの」ということに何も答えられないのではまずいなあと。
とはいっても、「具体的にこうします」とハッキリいえる団体も出ています。劇団シヅマは稽古初日を丸々費やしてハラスメント講習を実施したそうです。主催の辻井さんは私も出演していただいたことがあるのですが、出演者が危険に晒された稽古場の事件をまるで昨日のことのように怒っていました。彼らは俳優の権利を守っていく劇団であり続ける筈です。旗揚げはもうすぐ。
そして、かなり制約の厳しい劇団内ルールを検討しているのが、関西を拠点にする劇団なかゆび。最終的にどのようなルールを発表するのか注目しています。

僕もついに、次からこうしよう、という具体的なアイディアを発表できるようになりました。ここに公式に発表します。
「参加の俳優、スタッフの全員をさんづけでよぶ」
僕はreset-Nを1995-2000にはプロデュースユニットとして、2000-2010には劇団として運営してきました。(2012年、2016、2017年にもプロデュースユニットとして公演をしています)その中でハラスメントについて胸に手を当てて振り返ってみると、不適切な言動が紛れもなくありました。パワハラ、モラハラに該当する行為です。
その全てが、年下の男性に対するものだった。
具体的には「どうしてこんなことができないんだ」といった精神的な追い詰めです。演技がうまくいっていないとき、半分は演出の責任だと今は思います。しかし当時は全てを若い俳優の責任だと考え、助けることも成長を待つこともせず、ひたすらストレスをぶつけていた。それは、演出でも演技指導でもなかった。
不思議なことに、女性の劇団員へはそういうことをしていなかった。もちろんセクハラも。若い男にはイライラをぶつけていたので、きちんとした人権意識やリスペクトを持って稽古を進めていたわけではないのです。どうして女優にはまあまあフェアでいられたのか。女性に甘いやつだからなのか。
女性には全員「さん」をつけて呼んでいたからじゃないだろうか。
若い男性にだけ「くん」で呼んでいたことから油断は生じたのではないか。
考えてみるとそうなんです。年上の男性に対しては「クボタさん」「ツルマキさん」とよび、年下には「○○くん」、と呼んでいた。女性はどんなに若くても「丸子さん」「山田さん」と呼んでいた。
女性には年齢に関係なくさんづけしていたのに、男性だけ年上か年下かで対応に差をつけていた、という言い方もできます。なおかつ、「呼び捨てにせずちゃんとくんづけにする自分は立派」とまで勘違いをしていたのでしょう。
「お客さんをキャクと呼び捨てにしてはいけない」という教えがあります。確か演劇集団キャラメルボックスの加藤プロデューサー(当時)から伝わってきたルールです。「今日のキャクは」なんていっているとお客さまへの感謝や敬意を忘れて傲慢になってしまうのだ、ということですね。なるほど、と思って学生劇団時代からずっと守っています。座内でも「お客さんのいない場所であってもキャクとはいわないようにしてください」と守ってもらっていました。(この手のルールでもう一つ、先輩からの教えで「アンケートを居酒屋で回し読みするとき、ジョッキを持ちながら読むのはダメ、いったん酒は置いて読もう」というのがあります。これも大事)
もう一つ、古い知り合いの舞台美術家から聞いた面白い話がありました。大道具で、ある若者があまりに仕事ができなくてずっと怒鳴られていたのですが、ある日から彼の師匠が「〇〇サン」と呼び始めたんだそうです。(ナカムラだったらナカさんみたいなことです)そしたら、彼がヘマをしても不思議と怒鳴れなくなった。そして、あまり怒鳴られなくなった彼はメキメキ成長したんだといいます。今では立派なプロ。
考えさせられる話です。呼び捨てやくんづけをしていると、役者は「年上に叱責される存在」のまま止まってしまいやすくなるのかもしれない。お互い呼び捨てならいいんですよ。でも、役者が「夏井さん」といっているならこちらも呼び捨てにしちゃダメだ。どこかで、「下の存在」という意識が固定されてしまう。役者から呼ばれるのと同じように「〇〇さん」と呼ぶべきなんです。
年下の男性へのさんづけ、最初は慣れないかもしれないけど、考えてみたら久保田さんも鶴牧さんも年下の僕に「夏井さん」と呼んでくれてたからなあ。慣れないとかいってる場合じゃない。
これが、次からの個人的な方針です。呼び捨てをしない。下の名前でよぶのもやめる。ちゃんづけもしない。あだ名でよばない。大物の客演さんに〇〇さんと呼ぶように、若手の劇団員も〇〇さんと同じ呼び方をする。舞台に立ってくれるプロの俳優として全員をリスペクトする。そうすることで大きな間違いを未然に防げるんじゃないだろうか。
ちゃんづけとかをしていても絶対にその辺を間違わない演出家なら、いいんですよ。でも僕は、間違えてしまったんだ。もう二度とああいう若手いじめのようなことをしてはいけないんだ。
そんなわけで、僕が今後「さん」をつけてなかったら、映画『AKIRA』のカネダのように「さんをつけろよデコスケ野郎!」といってください。
ではでは!
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